現場レポート
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日常生活でひざに痛みを感じ、整形外科を受診すると、問診や触診などのほかに、レントゲン検査(X線検査)を受けます。適切な治療を受けるためには、正確な診断を受けることがとても重要ですが、そもそも診察とレントゲン検査で何がわかるのでしょうか。ひざ関節や股関節の手術をはじめとする関節外科を中心に、整形外科全般の専門的な診断と治療に取り組まれている、にしくまもと病院 病院長兼関節外科センター長の山口浩司先生に教えていただきました。
ひざの痛みの原因は、どうやって診断するのですか?ひざの痛みが変形性膝関節症によるものなのか、それとも関節リウマチなど他の病気が原因なのかを見分けるために、まず問診や触診をします。問診では、「いつ頃から痛むのか」、「どのように痛むのか」などを患者さんに尋ね、さらに、ひざが熱を持っていたり、腫れたり、関節や足全体が変形したりしていないか、といったことを見たり触ったりして確かめ、実際に歩いたときのひざや全身の動き、状態も確認します。そして、レントゲン検査(X線検査)によって足全体や関節の状態を調べ、患者さんの自覚症状や診察の内容と照らし合わせます。その中で、変形性膝関節症以外の病気の有無を確認するために、血液検査や関節液検査、MRIやCTといった画像検査を行うことがあります。
表 <変形性膝関節症の診察・検査> 問診 ・何カ月前、何年前から痛み始めたのか
・立ち上がるとき、階段の昇り降りのとき、歩いているとき、寝ているときなど、どのようなときに痛むのか
・常に痛むのか、痛むときと痛まないときがあるのか、だんだん痛みが強くなっているのかなど触診 ・ひざが熱を持っていないか、水が溜まって腫れていないか、赤みや変形、関節の安定性に問題がないかなど 歩行の状態 ・歩いたときのひざを含めた足全体、からだ全体の動きや状態を確認する レントゲン検査
(X線検査)・足全体や関節の状態を確認する、関節の骨と骨の間のすき間の具合や骨棘ができているかどうかなどを確認する レントゲン検査で何がわかるのですか?レントゲン検査では、足全体にO脚やX脚のような変形がないか、骨の中に異常な影や突出、欠損などの異変がないかどうかを確認します。さらに、関節の軟骨そのものはX線には写らないので、骨と骨のすき間(関節裂隙 かんせつれつげき)の大きさから軟骨のすり減り具合を評価します。このときに覚えておきたいのは、レントゲン検査は、横に寝た姿勢だけでなく、立った姿勢でも撮影したほうが、診断の精度が高まるということです。なぜなら、寝た姿勢でのレントゲン検査は、ひざに体重がかかっていないので、骨と骨との間にすき間ができて、軟骨があるかのように見えるからです。しかし、ひざに体重がかかる立った姿勢で関節のすき間が狭くなっていれば、軟骨が摩耗していると判断でき、関節が安定するように支えている靭帯のゆるみ具合なども確認することができます。
ひざ関節の異常は、レントゲン写真にどのように写るのでしょうか?正常な足は、股関節、ひざ関節、足関節を結んだ線がほぼ一直線になります。関節に異常があるとこの骨の並び具合が歪んで見えます。変形性膝関節症の人のひざ関節は、軟骨が次第にすり減り、骨と骨との間にすき間がなくなってきます。それに伴って、人によっては、骨棘(こつきょく)といって、関節の骨の縁に丸みを帯びたり、尖ったりした骨の棘(とげ)ができることがあります。骨棘によって痛みが出ることはあまりなく、引っかかりや出っ張った感じがして、動かしづらくなることがあります。骨棘ができるのは、進行段階にある変形性膝関節症の中期に多く、そろそろ注意が必要な時期だと判断できます。変形性膝関節症がさらに進行すると、骨のう胞といって関節の骨に穴が開いてしまうことがあります。また、軟骨がすり減った部分などの骨の白さがひときわ濃く写る場合は、骨硬化という骨の変質が起きており、この場合も変形性膝関節症が進行段階にあると言えます。
このように関節の異常は、レントゲン検査でかなり確認することができます。患者さんとしても、自覚症状だけでなく、こうした客観的なデータからも自分の変形性膝関節症がどのくらい進んでいるのかを知っておくと、適切な治療をタイミングよく受けることにつながっていくと思います。ただし、くれぐれも自己判断することはやめてください。あくまでも患者さんと医師が同じ情報を共有し、同じように理解するための知識として備えてください。
診察で「しばらく様子をみましょうか」と言われたけど不安です・・・日常生活での注意点を守り、筋力トレーニングやリハビリテーションを続けるなどを実践しながら「しばらく様子をみる」というのは悪いことではありません。しかし、ただ漠然と様子をみるのではなく、どんな動作のあとに痛むのか、注射を打ったあとの痛みはどうだったのかなど、痛み具合を簡単にメモしておくとよいでしょう。そして、次回の診察の際に医師に伝えてもらうと治療効果を見定める判断材料になります。
一方で、痛み止めの薬や注射、リハビリでの治療を3ヵ月くらい続けても効果が見られず、痛みがつらかったり、歩くのが大変だったりする場合は、手術を含めた次の治療法を考えてみるといいと思います。痛みが良くならないのにがまんし続けてしまうと、病気が悪化し、進行してしまうことがあります。実は、医師の目から見て、がまんするのはもったいないと思える痛みはたくさんあるのです。
元気に歩けるようになるために、人工膝関節置換術を考えるなら、半年前と今の歩き方を比べるなど、自分の痛みを客観的に見ておくと、自分自身で納得のいく手術のタイミングを見定めることができると思います。特に変形性膝関節症は多くの場合、痛みが徐々に増してくるので、いつの間にかその痛みに慣れてがまんすることができるようになったり、痛い足をかばうような歩き方をしたりするんですね。だから発症してから5年、10年と経ってしまって、買い物に行くのも大変、外出の頻度も減っているなど、生活の質がかなり落ちてしまっている患者さんもいます。手術のタイミングはあくまでも患者さんが決めることですが、知っておいていただきたいのは、まったく歩けなくなってしまうと全身的な体力が低下してしまうことです。人工膝関節置換術は、かなり進行した状態でも行えますが、心肺機能が衰えてしまったために手術自体ができないということがあり得ます。決断すべき時期というのはありますから、定期的な診察や検査を受けながら、医師と一緒に自分の状態や病状の傾向を把握して、適切なタイミングをつかむとよいと思います。
人工膝関節置換術が必要な患者さんに行う「手術前計画」とは何ですか?人工膝関節置換術を行う目的は、痛みがなく、日常生活がスムーズに送れるようになることです。そのためには、人工関節が体の一部としてぴったりフィットするように、手術前に綿密な計画を立て、正確な手術を行えるように準備しておくことが重要になります。
人工膝関節置換術では、関節のすき間(軟骨)を再現し、骨の並び具合を修正してO脚やX脚を直し、真っ直ぐな足でよく動き、痛みのない状態を目指します。このような良好な状態を長期間持続させるために、手術前計画では、特殊な撮影方法によるX線やCTの画像などを元に、正しく骨棘を取り除き、骨を切る角度や削る厚さを精密に設定し、骨の形と人工関節の器具が精密に噛み合うように準備しておきます。かなり進行してしまったケースでは骨を移植することがありますが、その場合も事前に緻密な計画を立て、患者さん一人ひとりにオリジナルの設計図を作成して、精度の高い手術を行っています。
変形性膝関節症で悩んでいる方にメッセージをお願いします。変形性膝関節症のひざの痛みは、生活習慣や季節などで波があるために、何年もがまんし続けて、痛みに耐えきれなくなったり、歩けなくなってしまってから受診するという方がいらっしゃいます。私は、痛みにがまんし続けている時間がとてももったいないと思います。今は、痛みのコントロール方法が発達していますし、人工膝関節置換術をはじめとする手術の痛みもずいぶん緩和されてきています。それに、患者さんが想像するよりも軽い治療方法や日常生活の指導、リハビリテーションで痛みが解決することも少なくありません。
医療は進歩していますから、ぜひ気軽に相談してください。そして、受診をして、もし先生の説明がよくわからなかったら、気兼ねせずに聞いてみることです。大切なことは、患者さん自身が自分のひざの状態や治療方法をよく理解して、治療に参加することです。手術の必要性や効果、注意点も遠慮せずに聞いてみてください。尋ねたからといって無理に勧められることはありませんから、どうか怖がらずに。イキイキと歩けるように、まずは一歩踏み出しましょう。
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