再生医療現場レポート
エリア
東京都
患者さん自身の自然治癒力で関節のつらい痛みを改善する
PRP療法、脂肪由来幹細胞治療の現状と展望
ドクタープロフィール
東京医科大学医学部 卒業、東京医科大学付属病院
整形外科、東京警察病院 整形外科、京都大学大学院医学研究科
修了
資格:日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本再生医療学会再生医療認定医
所属学会:日本整形外科学会、日本再生医療学会、日本スポーツ協会
専門疾患:再生医療全般
ドクタープロフィール
東京大学医学部 卒業、東京大学医学部
整形外科、東京大学大学院医学系研究科
修了、東京大学医学部附属病院 骨・軟骨再生医療講座
特任准教授、東京大学大学院医学系研究科 整形外科
准教授、東京大学医学部附属病院 骨粗鬆症センター
センター長
資格:日本整形外科学会専門医/代議員、日本再生医療学会
代議員、日本骨代謝学会専門医、日本軟骨代謝学会専門医
所属学会:日本整形外科学会、日本再生医療学会、日本骨代謝学会、日本軟骨代謝学会
専門疾患:変形性関節症、骨粗鬆症
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CHAPTER 01変形性膝関節症の痛みの原因にアプローチする再生医療とは
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CHAPTER 02膝の痛みを改善するPRP(多血小板血漿)療法とは
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CHAPTER 03整形外科分野の細胞治療(再生医療)の未来
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整形外科の分野ではどのような幹細胞治療が行われていますか?
齋藤 幹細胞による治療として初期から行われてきているのが、患者さんの骨髄から幹細胞を取り出し、試験管の中で軟骨などの組織をつくり、欠損した部分に埋める(体に戻す)という治療法です。それに加えて幹細胞に強い抗炎症作用が備わっているのが確認されたことで、ここ10年くらいで急速に研究が進んでいるのが、幹細胞をそのまま点滴や注射で患部に投与するという治療法です。すでに、骨髄移植などの臓器移植に伴って起こる合併症(GVHD=移植片対宿主病)に対して、命に関わる免疫反応を抑えるために幹細胞を点滴するという治療が行われています。さらに、脊髄損傷に対して患者さん自身の骨髄からとった幹細胞を体外で増殖させて投与したところ、麻痺して動かなかった手がよく動くようになったという成果も出ています。
関節の治療にも幹細胞は使われているのでしょうか?齋藤 変形性関節症の膝関節では、何らかの理由で関節内の炎症を抑えきれなくなっていることがわかっています。そこで患者さん自身の幹細胞を取り出し、体外で増殖させてから関節内に投与すると、長期にわたって炎症を抑え、痛みを改善する効果が期待できるとして、今、世界中から臨床試験の結果が報告されています。
また、近年は骨髄だけでなく皮下脂肪にも幹細胞が多く存在することがわかり、脂肪由来の幹細胞による関節治療が多くの施設で行われるようになっています。幹細胞治療やPRP療法で関節軟骨は再生するのですか?齋藤 幹細胞治療、PRP療法で一部の人はすり減った軟骨が少し再生したというデータは出ています。しかし、中には再生しない人もいます。どうしてそのようなことが起こるのか、その理由はまだ研究途上です。また、データに基づく証明はこれからですが、趣味で旅行や登山をしていたなど、もともと活動性が高い人のほうが幹細胞治療、PRP療法ともに治療効果が高い印象があります。実際、動物実験では、膝関節の中にある炎症を抑える幹細胞は、膝関節を動かすことで活性化するというデータが取れ始めています。もちろん、使いすぎで関節を酷使するのはよくありませんが、膝関節内の滑膜を伸ばすようなイメージでやさしく動かしたり、大腿四頭筋を鍛えたりすると、それだけで自然に膝の痛みが和らぐという患者さんも少なくありません。
整形外科の分野の細胞治療は、今後どのような発展が期待できますか?齋藤 近年、PRP療法も幹細胞治療も世界各地で行われている臨床試験でかなりの人に有効性があると報告されています。しかし、全員に等しく効果が出るわけではありません。効果の有無、程度に個人差が大きく、その原因もまだわかっていません。その中で、PRP療法では、治療効果の精度をより高めるためにPRPの能力を高めたAPS療法が開発されています。同様に幹細胞治療についても、より高い効果が期待できる“スーパー幹細胞”のようなものをつくるために、培養方法の工夫や他人から採取した幹細胞を使用するなどの研究が世界中で行われています。関節の痛みを改善するために手術が必要だけれども、様々な理由で手術に踏みきれないという方々に対して、より症状を取り除き、多少痛みはあっても歩けていた5年前、10年前の状態を少しでも長く維持できるようPRP療法、幹細胞治療ともに研究が進められています。
さらに、幹細胞による治療では、関節だけでなく神経への直接投与についても研究が進んでおり、幹細胞やiPS細胞で靭帯や腱、神経を体外でつくるという研究も進んでいます。整形外科の分野での再生医療の研究は非常に盛んに行われており、期待が持てると思います。最後に細胞治療(再生医療)に関心のある方にメッセージをお願いいたします齋藤 テレビや新聞のマスコミ報道などで、再生医療は夢のような素晴らしい治療だというイメージを持っている方も多いと思います。しかし、再生医療はまだ研究段階のものが多く、ヒトで効果が証明され、実用化されているものは多くありません。また、再生医療といってもできること、できないことは必ずあり、すべての方に等しく効果が期待できるわけでもありません。さらに、幹細胞治療、PRP療法、APS療法は、保険適応にはなっておらず、全額自己負担となります。ただ、その中で、私自身も変形性膝関節症の分子メカニズムを長く研究し続け、病態の主体は炎症だということに行き着いたことで、次の段階として細胞治療を実施する医療施設と共同研究を始めています。不確実な治療をもっと信頼のある有効性の高い治療にするために、より多くのデータを取り、細胞治療の有効性、確実性を高める取り組みも進んでいます。期待を持っていただきたいのと同時に、進歩し続けている再生医療について、信頼のおける医療施設で十分に説明を受け、納得のいく治療を受けていただきたいと思います。
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