再生医療現場レポート
エリア
広島県
長年向き合ってきた“ひざの痛み”
細胞の治る力を利用した新たな治療選択肢
人工関節センター長
ドクタープロフィール
専門分野:膝関節外科、スポーツ外科
資格:日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本人工関節学会会員、日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS)評議員
ドクタープロフィール
専門分野:一般整形外科
資格:日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医、日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS)会員
-
CHAPTER 01膝の痛みに多い変形性膝関節症の原因と治療法
-
CHAPTER 02保存療法と手術療法の間をつなぐAPS療法
-
CHAPTER 03まずは膝の状態を正しく診断しご自身にあった治療法の選択を
-
PRP(Platelet Rich Plasma:多血小板血漿)療法とはどんな治療法ですか?
PRP(多血小板血漿)療法イメージ
藤本 PRP療法は自己の血液中に含まれる血小板の成長因子を利用した再生医療です。元来血小板は傷ついた場所に集まり、血を固める働きがありますが、同時に組織の修復を促進する多くの成長因子の働きによって治癒を促します。この自己修復機能を利用し、自然治癒力を高めて患部の傷んだ組織の修復を目指します。
ご自身の血液から取り出す成分で治療を行うため、アレルギーや感染、重篤な副作用は少なく、また身体の局所や関節内への成分の注入のため、手術のように皮膚を大きく切開したり麻酔をおこなうといった身体への大きな負担はありません。海外では、主に早期復帰を目指すスポーツ選手に対して行われており、メジャーリーグの日本人選手がこの治療を行ったことで、一般的にも知られるようになりました。
治療では、外来で患者さんから静脈血を採取し、遠心分離機にかけてPRPを抽出します。筋(きん)・腱(けん)・靱帯(じんたい)損傷の他、上腕骨外上顆炎(じょうわんこつがいじょうかえん)(テニス肘)、アキレス腱炎、膝蓋靱帯炎(しつがいじんたいえん)(ジャンパーズニー)、足底腱膜炎(そくていけんまくえん)、肩の腱板(けんばん)損傷、肉離れなどに効果が期待されています。APS(Autologous Protein Solution:自己タンパク質溶液)療法とはどんな治療法ですか?住田 APS療法は、抽出されたPRPから抗炎症成分など関節の炎症由来の痛みを抑える成分を高濃度に抽出して患部に注入する方法です。血小板の成長因子を濃縮した状態にして、さらにそこから抗炎症作用や修復作用の成分を取り出したものになるため、APS療法は広い意味でPRP療法にも分類されます。APSは関節内で炎症を引き起こすタンパク質の活動を阻害し、炎症を抑える効果が期待されています。現在では膝などの変形性関節症の治療に取り入れられ、保存療法や手術療法の中間くらいに位置する治療法として期待されています。
患者さんには、画像検査や血液検査を事前に済まされ受診される場合と、APS療法がどういうものか興味を持たれて受診される場合と2通りがありますが、実際に治療を行う前には、もちろん全員に画像検査や治療効果の説明を受けていただき、検査を進めていきます。診察や検査とは日を分け、注射を行う日は注射のみを行います。まずは採血をし、患者さんには30分くらい休んでいただき、その間に遠心分離機でAPSを抽出します。その後は一般的な関節注射と同様に、まず関節に注射をし、関節液を抜いたところにAPSを注入します。だいたい1時間くらいで終わり、日帰りが可能です。
※検査のタイミングなどは医療機関によって異なる場合があります。APS療法の流れ
PRP療法やAPS療法は、どの医療機関でも受けられるのでしょうか?住田 PRP療法やAPS療法は、厚生労働省が定める「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」のもと、審査を経て認可された施設でのみ実施可能です。このことからも、自分の血液の血小板という成分を抽出して組織の修復を促したり炎症を抑えたりする、つまり自らの血液を使って本来我々に備わっている治る力を利用するという治療法は他の治療法と比較して安全性が高いと言えます。ただし、現時点では保険適用外で全額自己負担となります。また、治療費は施設によって異なりますので、事前に確認するようにしましょう。
どのような状況もしくはタイミングで、APS療法を検討される方が多いのでしょうか?住田 いろいろな方がいらっしゃいますが、ひとつは比較的お年を召されて膝の痛みを抱えて悩んでいられる方で、保存療法はもう試されていて、残されているのは手術療法しかないというケース。その中で、手術に対する不安や持病の関係で手術ができないという方は、APS療法を試してみても良いタイミングだと思います。もうひとつは、お仕事や趣味でテニス、ダンスなどをされている活発な方で、保存療法はしているけどなかなか良くならないケース。手術をすると仕事や趣味に制限が出てきてしまうため手術に踏み切れない方で、APS療法に興味を持たれている方は試されても良いかと考えます。レントゲン検査のグレードではグレード2からグレード3が効果が得られやすいと考えていますが、グレード4の方でも相談の上でトライすることもあります。地域柄、牡蠣打ちやミカン栽培などで膝を酷使されてきたご年配の方も多くいらっしゃいますから、痛みがあるときはまず専門医に診てもらい、ご自身の膝の状態とAPS療法含めどのような治療法があるのか知ることが大事だと思います。
変形性膝関節症
この記事が気に入ったら
いいね ! しよう