再生医療現場レポート
エリア
東京都
変形性膝・股関節症の新たな治療選択肢 再生医療“APS療法”
ドクタープロフィール
東京医科大学卒。厚生中央病院、Loma Linda University Medical Center、湘南鎌倉人工関節センター勤務を経て現職に
専門医・所属学会:日本整形外科学会 専門医、運動器リハビリテーション専門医、日本整形外科学会 認定スポーツ医、日本整形外科学会、日本人工関節学会、日本膝関節学会、日本股関節学会、アメリカ整形外科学会、AAHKS(American Association of Hip and Knee Surgeons)、ISTA (International Society for Technology in Arthroplasty)
ドクタープロフィール
福井大学医学部卒業後、国民健康保険関ヶ原病院、高山赤十字病院、湘南鎌倉人工関節センターを経て現職に。2012から2年間フロリダ大学留学
専門医・所属学会:日本整形外科学会 専門医、日本人工関節学会、日本股関節学会、日本再生医療学会、AAHKS(American Association of Hip and Knee Surgeons)、ISTA (International Society for Technology in Arthroplasty)
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変形性関節症の治療として保存療法を行っても思ったほど効果がなく、痛みをがまんし続けているという人が数多くいらっしゃいます。変形性関節症への新たな治療の選択肢として効果が期待されている再生医療にAPS療法があります。今回は変形性関節症の中でも特に患者数の多い膝と股関節の傷みの原因や治療法、APS療法の可能性について塚本先生と辻先生に詳しく伺いました。
PRP(多血小板血漿)療法とAPS療法の治療法と違いについて教えてください塚本 PRP療法は、患者さん自身の血液の成分である血小板から、傷んだ組織を修復することが期待される成長因子をたくさん含んだものを傷んだ筋肉や腱などの患部に注入し、痛みの改善や早期の治癒を目指す治療法です。
辻 APS療法は、PRPにさらに処理(脱水と濃縮)を加えて、炎症を抑えるタンパク質と組織修復に働く成長因子を高濃度に抽出したAPSを関節内に注射する治療法です。傷みの原因となっている炎症を抑制する効果などが期待されています。
なお、再生医療は、厚生労働省が定める再生医療法(再生医療等の安全性の確保等に関する法律)により、リスクに応じて1種、2種、3種と3段階に分けられています。2014年からは、他の再生医療と同様にPRP療法も再生医療法のもとで行わなければならなくなりました。そのため現在では、PRP療法、APS療法ともに厚生労働省への届出が必要です。
さらに、血液からPRPやAPSを採取する際のキットや、それを調整する施設にも厳しい安全基準が設けられており、施術の手順も細かく決められています。治療を受けるリスクはありますか?治療の流れ
塚本 APS療法は、まだ保険適用にはなっておらず、患者さんが治療費の全額を負担する自費診療です。しかも、すべての人に同等の効果が得られるという保証はありません。注射を打つので、ごく稀ではあるものの感染のリスクもあります。医師から十分に説明を受け、こうしたリスクも納得した上で治療を受けることをお勧めします。
辻 APS療法は、自分自身の血液を使用するため、免疫反応などによる副作用が起きる可能性は非常に低いと考えられています。ただし、APS療法を受けた直後は、痛みが強くなる時期があるということも知っておいてください。そのため、APSの投与後、1~2週間は激しい運動をせず、無理をしないようにしてください。日常生活は特に問題なく行えます。また、症例によっては、効果を実感するまでに時間がかかることがあります。再生医療は、自分の治癒力によって少しずつ改善が期待されるものだと考えてください。
服用されている薬によっては、避けたほうがよい薬と服用しても問題のない薬があります。そのため医師の指示に従い服用するようにしてください。APS療法を受ける際に知っておいたほうが良いことはありますか?塚本 APS療法を受けたからといって組織や関節軟骨が再生するわけではありません。あくまでも期待できるのは組織修復作用、抗炎症作用であるということです。また、できるだけ定期的にリハビリができ、膝関節や股関節の専門医がいる医療施設で受けることが大切です。APS療法を受けただけで関節が元通りに治ったり、若返ったりするわけではなく、リハビリなども重要だからです。
APS療法を検討したほうが良いタイミングはありますか?ヒアルロン酸注射
塚本 保存療法が効かずに痛みが強く変形が進んでいる場合、次の治療の選択肢として人工膝関節置換術などの手術療法があります。
APS療法は日本では2018年8月より国に届出が受理された医療機関でのみ受けられるようになったばかりで、期待できる効果については、まだ長期データが出ていません。しかし、様々な事情でまだ手術は受けたくないけれども、痛みが強く、歩行困難など生活に支障が出ている場合に、APS療法が期待されています。ただしAPS療法は、ヒアルロン酸の関節内注射やリハビリを十分に実施し、それでも効果が得られずに痛みが強い場合に検討したほうが良い治療法だと思います。辻 変形性股関節症の痛みに対するAPS療法の効果については、明言できるほどのデータはまだないものの、個人的な印象としては、かなり期待しています。というのも、50歳くらいの変形性股関節症の患者さんで、半年近く、外出も憂鬱になるくらいの痛みがあり、困っているという人にAPS療法を実施したところ、施術後2週間目くらいから「痛みがかなり改善した」という印象を患者さん自身が持たれているというケースも中にはあります。ただし、2週間程度で効果を実感するのは稀で、通常は、施術後2~3か月目くらいから除痛効果を実感するケースが多いといわれています。
様々な事情で手術を先延ばしにしたいけれど、強い痛みで生活に支障がある場合や、90代の超高齢で体力がなく、手術は難しいような方でもAPS療法を検討してみても良いと思います。この記事が気に入ったら
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