再生医療現場レポート
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いろいろな治療を続けても期待するほどの効果が得られない、しかし、「できるだけ手術は避けたい」という思いから、再生医療の一つであるAPS療法に期待される方が多いといわれます。しかし、APS療法を受けると、「膝の変形が元のように戻る」、「なくなった軟骨が再生する」と誤解されている方も多いようです。今回は膝の痛みの原因として多い、変形性膝関節症の原因と治療法、APS療法に期待される効果と留意点について、寛田クリニック院長の寛田司先生にお話を伺いました。
50代以降で多い膝の痛みの原因は何ですか?半月板や靭帯の損傷が痛みの原因となることもありますが、50代以降の方に特に多いのは、加齢によって膝関節の軟骨がすり減ることで生じる「変形性膝関節症」です。軟骨がすり減って骨同士がぶつかり、摩擦によって生じた軟骨などの破片が関節包(関節を包む袋)の内側の滑膜にぶつかることで炎症が起こり、痛みや膝に水が溜まるという症状が発生するといわれています。加齢に加え、肥満やO脚変形、過去の膝関節の怪我などが変形性膝関節症の原因となることもあります。
変形性膝関節症は、レントゲン検査で関節の隙間などの状態をもとに重症度が分類されますが(KL分類)、画像上では変形が進んでいないのに痛みの強い方がいます。この場合、半月板損傷や骨の内部が傷んでいる骨挫傷などが痛みの原因であることも考えられますが、これらはレントゲン画像では判断できません。MRI検査を行なってはじめて正しい原因を特定できる場合もありますので、まずは膝の専門医に相談し、ご自分の膝の状態を正しく知りましょう。KL分類
変形性膝関節症にはどのような治療があるのですか?インソール
関節内注射
大きく分けて手術以外の方法(保存療法)と手術があります。
保存療法には、痛み止めの薬や関節内注射、インソール、リハビリテーションなどがあります。関節内注射には主にステロイドとヒアルロン酸が使用されますが、ステロイドには強い抗炎症作用があるため、滑膜の炎症が強く、水が溜まるような方に効果的です。ただし、長期にわたって頻回に使用すると、滑膜細胞や軟骨細胞の成熟を抑制してしまう可能性があるため、注意が必要です。一方、ヒアルロン酸は膝に荷重がかかった時に、それを分散させるクッションや潤滑油の役割を果たします。さらに、滑膜細胞や軟骨細胞の成熟を助けると共に刺激し、正常な活動ができるようにアシストする役目もあります。
インソールは、O脚やX脚のために片方に偏っていた体重のかかる位置を、足の裏にシート(インソール)を挿入することで圧力を分散し、膝の痛みの軽減や骨の変形の進行抑制を図ります。行動変容とはどういうことですか?例えば、正座や布団で寝るといった膝に負担のかかる生活様式を変えたり、運動を習慣化したり、過体重の方は減量を心がけるなど、今までの行動や環境を変えることで変形性膝関節症の改善を目指す「行動変容」が大切だと考えています。ただし筋力が弱っていては、なかなか生活様式を変えたり運動することができません。そのため、リハビリによる筋力トレーニングが重要になってきます。
特に、膝関節周囲の筋肉だけでなく、体幹や股関節周囲の筋力トレーニングも行うことが重要です。また、痛みがあっても行えるトレーニングはたくさんありますので安心してください。筋力トレーニングは毎日行うほうがいいので、ご自身の状態に応じたトレーニングを行い、筋力をつけ行動変容できるようにしていきましょう。このような方法を行うことで、手術を回避できる方も多くいらっしゃいます。
行動変容しても痛みが改善せず、生活レベルや日常生活に支障をきたし、ご自分の満足する生き方ができなくなった時は、骨切り術や人工膝関節置換術といった手術、最近では、APS療法という再生医療も選択肢の一つになりました。
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