再生医療現場レポート
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加齢によって起こる「腱板損傷」や「変形性膝関節症」に対しては、保存療法や手術療法などが行われています。しかし近年、PRP療法やAPS療法など「再生医療」と呼ばれる新たな技術が注目されるようになり、治療の選択肢に加わってきました。「腱板損傷」や「変形性膝関節症」の原因や再生医療を交えた治療法について、福岡志恩病院 理事長 石谷栄一先生にお話しをうかがいました。
「腱板損傷」「腱板断裂」とはどのようものですか?肩は肩甲骨の関節面(関節窩(かんせつか))と上腕骨の骨頭からなる関節で、筋肉や腱、靭帯といった軟部組織がこれらの骨を覆うことで肩を安定させています。肩関節の深層には、腱板とよばれる肩甲骨と上腕骨をつないでいる4つの筋腱から構成される組織があり、肩を挙げたり、関節を安定化させる働きがあります。腱板は加齢とともに少しずつ傷んでいくので、中高年の人が重いものを持ち上げたり手を着いたりなど、日常生活での何気ない動作で肩に軽微な力が加わることで断裂することが多いようです。断裂直後の典型的な症状は、痛みと自力で腕を挙げられなくなるというものですが、1ヶ月ほどで急性期の痛みがとれて肩を挙げられるようになることが多いです。しかし断裂した腱板が自然につながることはなく他の筋腱を代りに使って動かしているので、肩より上の高さに腕を挙げての動作や力仕事、スポーツなどではうまく力が入らないことがあり、夜間痛が出現するのが特徴的です。
五十肩と呼ばれるものと腱板損傷、腱板断裂は違うのですか?「五十肩」は「明らかな起因を証明しにくい初老期の疼痛性肩関節制動症」として定義されています。つまり五十肩は、肩関節の痛みと関節可動域制限を主な症状とする疾患で、明らかな外傷やきっかけがなく徐々に痛み(特に夜間痛)が出現し、肩関節の動きが制限されてくるものをいいます。
個人差はありますが、通常半年から1年で症状は軽快します。しかし痛みが強い場合は、注射療法(ステロイドやヒアルロン酸)などで炎症を抑えながら理学療法で肩関節周囲のリラクセーションを開始します。手術に至ることは少ないのですが、頑固な痛みや可動域制限が継続する場合、手術することにより早期の除痛が得られ可動域拡大による日常生活動作が大変行いやすくなります。
「五十肩だから、たいしたことない」と思っている人がいるかもしれませんが、肩腱板断裂・腱板炎・頸椎疾患などが隠れていることが少なくありません。頑固な五十肩の症状で困っていたり、肩の痛みが続くようであれば一度専門医に相談したほうが良いでしょう。「腱板損傷」「腱板断裂」を予防する方法や治療法にはどのようなものがありますか?リバース型人工肩関節置換
調査研究によると、背骨の動きが円滑な人とそうでない人では、背骨の動きが円滑でない人のほうが腱板損傷を起こす割合が高いとされています。つまり、背骨が動くかどうかが肩の動きと関わっていると考えられるわけです。そのため、腱板損傷を予防するためには、背中を伸ばしたり縮めたりする運動や、肩甲骨を寄せたり広げたりするストレッチなどが効果的です。腱板が完全に切れてしまっているなど、腱板の損傷が大きくなればどうしても手術という治療法になりますが、損傷が小さい、痛みがない、ご高齢などの場合は、筋力トレーニングやストレッチなどのリハビリ、投薬などで治療を行います。手術へと進んだ場合、基本的には関節鏡(かんせつきょう)手術を行います。断裂が大きい場合は、2014年から使用できるようになったリバース型人工肩関節置換(じんこうかたかんせつちかんじゅつ)という選択も可能になってきました。
いずれにしても、断裂の大きさ、年齢、職業、日常生活などその人の状態に適した治療法を検討していきます。「変形性膝関節症」とはどのようものですか?全置換術と部分置換術
膝(ひざ)関節にある軟骨が、加齢や体重増加にともなって摩耗していき、強い痛みが生じるというもので、高齢者、特に女性に多いのが特徴です。日本人の場合の多くは、膝の内側から悪くなっていく人が多く、そのため進行すると脚の形がO脚に変形していきます。
変形の進行状態によって様々な治療法があるのですが、初期の段階では投薬(鎮痛剤(ちんつうざい)など)を行ったり、筋力トレーニングで膝周辺の筋力を強化したりヒアルロン酸を関節内に注射するという保存療法(ほぞんりょうほう)で、膝関節の動きを維持する治療を行います。そういった保存療法を続けても症状が改善せず、変形や痛みが進行していく場合は、手術を検討することになります。
手術には、内側に偏ってかかっている荷重(かじゅう)を、外側へと移動させる、「骨切り術(こつきりじゅつ)」や「人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ)」があります。人工膝関節置換術には、傷んでいる膝の内側だけを人工関節に置き換える「部分置換」と、膝の全部を換える「全置換」がありますが、頻度は高くないものの、「感染」というリスクもあります。そのため、職業や生活状況から傷を作りやすく感染するリスクが高いと考えられる環境にある場合や、日常的に活動性が高い、積極的にスポーツを続けたいといった場合、自分の関節を残す骨切り術が選択されることがあります。
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