再生医療現場レポート
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CHAPTER 01保存療法でも手術でもない、変形性膝関節症の新たな治療法とは
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CHAPTER 02血小板が持つ組織修復力を利用し、炎症にはたらきかけるAPS療法
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CHAPTER 03APS療法の流れや治療後の注意点、期待される効果について
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APS療法について詳しく教えてください
血液を利用した再生医療では、以前からPRP(Platelet Rich Plasma=多血小板血漿)療法という関節外への治療が行われています。これは、患者さんの血液を採取し、遠心分離機にかけて抽出した、血小板を多く含む血漿であるPRPを取り出し、患部に注入するものです。血小板は、怪我などで出血したときに血を止めたり、傷ついた血管を修復するものとして知られています。この組織を修復する力を利用して、靭帯損傷(じんたいそんしょう)や腱炎(けんえん)などの治療に用いられています。みなさんもご存知のプロスポーツ選手が靭帯損傷の治療でよく用いている方法です。APS療法は、PRPをさらに遠心分離機にかけて脱水処理をし、炎症を抑える物質や軟骨の健康を守る成長因子を濃縮させたAPSを関節内に注入する治療法です。関節内の炎症バランスを調整する効果が期待されることから変形性膝関節症の治療に取り入れられています。
APS療法は安全なのでしょうか?PRP療法もAPS療法も、厚生労働省が定める再生医療法のもとで行う必要があります。一定基準の安全性を満たし、厚生労働省への届出が受理された施設だけが提供できる治療法であり、国の管理下で行われているという点は患者さんの安心材料になるのではないかと思います。
使用するのは患者さん自身の血液なので、免疫反応などの副反応や薬での副作用のような有害事象が起こる可能性は低いと言われています。APSを関節内に注入するとき、針を刺すことによる感染リスクがわずかながらにありますが、その確率はヒアルロン酸注射などの関節内注射と同程度です。APS療法のような再生医療なら、軟骨のすり減りや骨の変形を治せますか?再生医療というと、その言葉の響きから、傷んだ関節が若い頃に戻るようなイメージが持たれがちですが、残念ながらそれは事実とは異なります。再生医療とは、人間の体が持つ組織再生や修復する力を利用した治療全般のことです。その中でAPS療法は、血小板や白血球に含まれる成分を使って、関節内の炎症や痛みを和らげたり、軟骨へのダメージを減らすことを目指した治療法です。すり減った軟骨を再生したり、骨の変形を元に戻し若返らせるものではありません。イメージとしては、1年から2年老化現象の進行を抑える効果が期待できる治療といったところです。現在の状態の維持を目指して、継続して治療を行うという選択肢もあります。
どのような方がAPS療法に適していますか?変形性膝関節症は、進行程度をグレード0(正常な状態)からグレードⅣ(末期)まで5段階にわけて考えますが、APS療法の効果が大きく期待できるのはグレードⅠ~Ⅲ、つまり初期から進行期までとされています。ただ、保険適用外で治療費が全額自己負担になってしまうため、あまり早い段階でAPS療法を選択する必要はないと思います。保存療法を続けてきたものの十分な効果を得られないという方であれば、手術に踏み切る前の新たな治療の選択肢として考えてみても良いと思います。また、基本的には外来で行う関節内注射の治療ですから、仕事や家庭の事情で手術を受けたくても受けられない方が、APS療法を検討することもあります。変形が高度になっている場合でも、APS療法で全く効果が期待できないわけではありませんが、進行期の方に比べやや劣る傾向にあります。よく相談の上、最終的に患者さんの希望に沿った治療を受けていただけるよう心がけております。
APS療法を受けられない方はいますか?関節リウマチ
ご自身の血液を使った治療法のため、血液疾患を抱えた方は、疾患によっては治療を避けるべきと言えます。また炎症に働きかける治療であることから、関節リウマチなど特殊な疾患で痛みが生じている場合も適用外となります。それ以外では、治療そのものを受けられない方はいません。
年齢制限も特にありません。むしろ高齢の方に多い、「持病で心臓が弱いため、今まで手術は受けたくても受けられなかった」という患者さんは、持病や体調の良し悪しを気にせず受けていただける、体に優しい治療法だと思います。
・医療機関によって、治療を受けられる患者さんの基準が異なる場合があります。
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