腱板とは、腕を上げる運動や、腕を内外に回す運動をする時に重要な役割を果たす筋で、
棘上筋(きょくじょうきん)、
棘下筋(きょくかきん)、
小円筋(しょうえんきん)および
肩甲下筋(けんこうかきん)の4つからなりますが、最も傷みやすいのが
棘上筋腱です。
腱板損傷(けんばんそんしょう)は、若年者から高齢者まで広い世代に見られ、明らかな外傷によるものや日常生活動作のなかで損傷や断裂が起きる場合もあります。腱板は肩峰(けんぽう)と上腕骨頭(じょうわんこっとう)にはさまれているため、小さな外力でも損傷しやすいのです。腕を高く上げる動作を繰り返すと、上腕骨の上端と肩甲骨上部で回旋腱板の筋肉を挟み込むことで
炎症や腫れを起こし、
腱が弱くなり断裂することがあります。症状としては、肩を動かすと痛く、特に肩を挙げるときに強い痛みを感じます。また
肩関節周囲炎(五十肩)と同様に夜間痛を伴うこともあります。
腕を外側に挙げることが困難な場合は腱板の機能不全の疑いがあります。
エックス線撮影で肩峰と骨頭の間が狭くなっていないかを確認し、MRIや超音波検査で腱板部の断裂の大きさや腱板の厚さを確認し、
肩関節周囲炎(五十肩)などと区別(鑑別診断)をします。
転倒などの外傷で損傷した場合には、1~2週間ほど三角巾で固定し安静にします。断裂部が自然に治癒することはありませんが、非ステロイド性消炎鎮痛剤(しょうえんちんつうざい)や関節内注射、運動療法などで除痛効果がみられる場合が多いです。
腱板が完全に断裂し、重度の肩の痛みや機能障害がみられる場合には、肩腱板縫合(修復)手術を行います。
関節鏡(内視鏡)による鏡視下腱板修復術(きょうしかけんばんしゅうふくじゅつ)を行う場合もありますが、腱板の断裂部の状態によっては、切開手術の方がよいこともあります。詳しくは、かかりつけの医療機関にお問い合わせください。
関節唇は
関節窩(
グレノイド)の縁にあり、肩関節の安定性を高めると同時に、さまざまな衝撃から守るクッションの役割を果たしていますが、スポーツ動作や肩関節
脱臼などが原因で、損傷することがあります。
肩
関節唇が損傷すると、野球の投球など、肩を使うスポーツや動作のときに、肩の深部に痛みを感じます。症状が悪化していくと、痛みのあるクリック音またはゴツンという鈍い音や、肩に引っかかる感覚が生じることがあります。
MRIやCTで診断を行います。まずは手術をしない治療法から検討され、理学療法(運動療法や物理療法)から治療を開始する場合が多いです。
肩関節周囲炎(かたかんせつしゅういえん)は40歳代~60歳代に発症し、その多くが50歳代であることから「五十肩」と呼ばれています。加齢に伴い肩関節周囲組織が傷み、
炎症を起こすことが主な原因です。
肩を動かすことで痛みを感じ、夜間痛(夜中や朝方に肩の痛みで目が覚める)という症状が特徴的です。肩甲骨周辺や腕など広い範囲に痛みを感じることもあります。五十肩では、頭の後ろや腰の後ろで手を組む動作が困難になります。
まず診察により肩関節の動きが悪くなっていることを確認します。次いで、
エックス線撮影を行います。五十肩による肩の異常は、
エックス線などの画像検査では特徴的な所見が指摘されることは少ないですが、それは、五十肩以外の病気ではないかどうかの鑑別診断に役立てるのが目的です。
自然治癒します。初めは強い痛みにより運動制限を伴いますが、時間がたつにつれ、徐々に症状は改善します。日常生活において腕に負担がかからないよう工夫するほか、非ステロイド性消炎鎮痛剤(しょうえんちんつうざい)や関節内注射、運動療法などで除痛効果がみられる場合が多いです。
肩は人体の関節の中でもっとも
脱臼しやすい関節のひとつです。スポーツや転倒事故などの外傷によって肩を
脱臼すると強い痛みを感じ、関節の
整復(元の状態にもどす)操作を行わないと、肩を動かすことが困難になります。また、一度肩を
脱臼すると、その後も何度も脱臼を繰り返し「
脱臼ぐせ」になる場合があり、その症状を反復性肩関節
脱臼(はんぷくせいかたかんせつだっきゅう)と呼びます。外傷に関係なく
脱臼を繰り返す
非外傷性不安定症(ひがいしょうせいふあんていしょう)は関節のゆるい若年の女性に多く見られるのが特徴です。
骨折の合併を調べるために
エックス線検査を行い、
上腕骨や肩甲骨の一部に特徴的な骨折がないかを確認します。
MRI検査ではバンカート病変(関節唇損傷)が見られることが多く、治療方法の選択の際に有用です。
初めての
脱臼時の治療は
脱臼ぐせにならないために大変重要です。
脱臼箇所を固定し、損傷した組織の修復を図り、その後すぐに運動療法(リハビリ)を行って、
脱臼ぐせにならないようにします。
脱臼ぐせがついた場合には、肩関節周囲の筋力訓練などの運動療法を強化し、再度の
脱臼を防止します。
脱臼ぐせが強い場合や運動療法(リハビリ)で改善されない場合は、手術が選択されます。
反復性肩関節脱臼の主な手術
・直視下手術
メスで切開して行う手術
・肩関節鏡手術(関節鏡視下バンカート法)
関節鏡を入れるための創を皮膚に3箇所入れ(1cm程度)、カメラで肩の内部を除きながら靭帯や関節唇を固定し
脱臼の通路を修復する手術
肩こりは病名ではありません。肩こりは乳酸などの疲労物質が筋肉にたまって起こる症状で、不自然な姿勢を長時間続けたり、過度なストレスなどにより引き起こされます。それらが原因で肩の筋肉が緊張すると血液の流れが悪くなり、疲労物質がたまり、肩がこわばります。ただし、病気が潜む危険な肩こりもあるため、手や腕にしびれを感じたり、肩こりが悪化するようであれば整形外科のクリニックにかかり、相談しましょう。
肩関節の治療の一覧
保存的療法
運動療法:ストレッチ、水中運動など
温熱療法:ホットパック、温湿布、電気・超音波器具など
薬物療法:消炎鎮痛薬、ヒアルロン酸注射、ステロイド注射、生物学的製剤など